オーナーセラピスト


Story
インタビュー

自然豊かな青梅駅から徒歩20分ほどの緑豊かなエリアに、
女性専用のプライベートサロン「AsianMoonなごみ」がオープンしたのは2021年の初夏。
オーナーでありセラピストである佐藤範子さんは、築40年を超えた民家を改装した店舗で、
足で全身を揉みほぐす「フーレセラピー」を提供しています。
15年におよぶ会社員としてのキャリアを捨てマッサージの世界へ飛び込んだ理由、
そして、青梅でサロン開業に至るまでの経緯を伺いました。

タイ古式マッサージとの出会い

東京・青梅で、女性専用のプライベートサロン、「AsianMoonなごみ」を営む佐藤範子さん。
会社勤めからセラピストの道を選んだのは、タイ古式マッサージとの出会いがきっかけでした。
高校を卒業後、会社員としてデスクワーク中心で働く中で、身体に疲れが溜まっていました。つらい痛みやむくみを解消したいけれど、今から20年ほど前はマッサージと言えば整体という時代。
整体院は20〜30代が行くイメージではなかったため、OLが通うには親しみを持てませんでした。かといってリラクゼーションを求めるとエステになってしまい、別の意味で敷居が高い。結局、身体の不調をだましだまし働いていました。
そんな佐藤さんがマッサージの魅力を知ったのは、2000年頃にタイを訪れたときのこと。 スキューバダイビングが趣味で、海外のリゾート地でダイビングをするのが楽しみでした。旅行中に出会ったのがタイ古式マッサージだったのです。
「マッサージと言えば、手を使ってほぐすようなイメージを持っていました。ですがタイ古式マッサージは、手だけでなく肘や膝など全身を使ってマッサージをするんです。小柄なタイ人のおばさんが背中に乗って、全身でマッサージをしてくれたことにびっくりしました。そして身体をほぐしてもらうのはこんなに心地いいのだと初めて知り、すっかりマッサージの虜になりました」

帰国後もタイ古式マッサージの心地よさが忘れられず、当時の住まいに近い吉祥寺にあるタイ古式マッサージ店に通うようになったのです。
会社員を辞めセラピストの道へ

それから数年、毎週のようにマッサージへ通い、疲れた身体を癒やしていた佐藤さんに転機が訪れました。
スポーツ中の事故で網膜剥離を起こし、効き目である右目を損傷してしまったのです。
目の負傷でパソコンを使って事務作業が難しくなってしまいます。また、15年間会社員として働いてきた中で、そろそろ働き方を変えてみたいという気持ちが高まりました。
「会社員を辞めてタイ古式マッサージのセラピストになる夢を叶えたいと想うようになりました。高校卒業からずっと働いてきた会社でしたし、当時は総合職に転換して働いていましたので、辞めてしまえばキャリアを失うことになります。さらにセラピストになれば、年収は大幅にダウンしてしまうことがわかっていました。葛藤はありましたが、家族に相談したところ応援してくれたので、思い切って退職することにしました」

最初の1年は学校に通うため、学費がかかります。しばらくは失業保険に頼る生活になってしまいましたが、セラピストになるという決意を実らせるため、朝から夜まで10ヶ月間、専門学校に通いました。
数多くある整体学校の中で、選んだ決め手はタイ古式マッサージを体系的に学べる点でした。
「当時は、タイの寺院でタイ人から習う人もいました。本場仕込みではありますが、英語かタイ語でのレクチャーになります。私は人の体に触るからには、きちんと体系立って知識を身に着けたいと思ったため、日本で学校に通ってタイ古式マッサージを学ぶことに決めました」

学校ではタイ古式マッサージの他、整体やリフレクソロジーについても学びました。さらに、タイのバンコクにてタイ古式マッサージ技術を習得する機会も得たのです。 卒業後は、お客として通っていた吉祥寺のタイ古式マッサージ店でセラピストとして勤務をはじめました。
「マッサージを受ける側から施術をする側になり、充実した日々を送っていました。途中で別の店に移り、3年ほどセラピストとして働きました。セラピストとしての仕事は順調でしたが、不規則な勤務時間などの事情から、家庭との両立が段々と難しくなってきてしまったんです」


再びの会社員生活

悩んだ結果、佐藤さんはセラピストの仕事を離れることを決めます。
マッサージを受ける側、行う側の両面から価値を感じていたものの、会社員に戻ることにしました。思いは残しつつも、辞めると決めたからにはすっぱりと決別し、マッサージ客として店に通うこともやめてしまいました。
それから8年ほど距離を置いた中で、再びセラピストに戻ったきっかけはプライベートの変化と、40代を迎えたことでした。
「セラピストの仕事を辞めたものの、心残りはずっとありました。家族に仕事の変化があり、平日日中以外にも働ける状況になって、セラピストに戻ろうかと考えはじめました。40代、自分のやりたいことにもう一度向き合うことに決めました」

戻ってみると、8年間のブランクは大きなものでした。体をどう動かすのか、感覚を取り戻す時間が必要でした。さらに年齢を重ねたことで、自分自身の身体の変化と向き合うことにもなります。
「セラピストの仕事を再開してから、本当に毎日が楽しいと感じました。施術をしていること自体が楽しいです。同じ志を持った仲間と、年代に関係なく交流することも有意義な時間でした。でも同時に、以前とは身体が変わってしまったことを痛感しました」

気持ちは変わらないものの、年齢と体力による変化は避けられません。マッサージは体を揺らしたりなど瞬発力を求められ、体力を使うものです。さらに、年齢により施術者自身の回復が遅くなっていくことを実感したのです。
そして、何歳までこの仕事をできるかと考えることも増えてきたと言います。
「マッサージ業界は競争が激しいです。自分の技術の幅を広げるために、介護職の方向けのアロマセラピスト養成講座を受講するなどタイ古式マッサージ以外の施術も習得しました。知識と技術をアップデートするよう心がけています」

自分の身体の変化を受け入れながら、どんな風にセラピストとして仕事を続けていきたいか。考えた結果、自分のマッサージ店を開業する気持ちが固まってきたのです。

マッサージでお客様に与えたい幸せ

マッサージによってお客様の身体の痛み、つらさを軽減したい。その気持ちは変わらないけれど、年を取るに連れ、助けとなりたい人は具体的になってきました。
「マッサージをはじめたばかりのころは、私自身が若かったので、オールマイティーに、たくさんの人にタイ古式マッサージをしてあげたいという気持ちが強かったです。でも40代になり、更年期の症状や身体の不調などが増えてきました。その中で、自分と同じようなつらさを抱えている人を癒やしたいと思うようになりました」

40代から50代は女性特有の不調を感じやすい時期です。しかし、症状や重さも人それぞれ。病院に行っても明確な治療法があったり、薬があるわけではないことが悩みを深くします。 更年期の女性を襲うのは、倦怠感、頭痛、不眠など、いわゆる不定愁訴と言われる症状。本人はつらいけれど、それをなかなか周りが理解してくれないという悩みを抱えている女性は少なくありません。
佐藤さんはそのつらさに寄り添い、和らげる場所を作りたいと考えるようになりました。
こうして女性専用のサロンのイメージを固めた佐藤さん。サロンを開く物件探しをはじめ、たどり着いたのが青梅でした。
「独立するにあたり、同時に自分の住居を構えたいという思いを強く持ちました。賃貸ではなく店舗兼住居となる物件を探しはじめたんです。住み慣れた東京近郊で、費用的な面で無理がない条件で探しました。そこで巡り合ったのが、青梅の一軒家でした。
青梅はとても住みやすいです。落ち着いていて自然が豊富で。確かに不便さはありますが、自分の子供の頃に戻ったような感覚ですね。コンビニは車で行く距離だったり、夜遅くまであいている店はないとか、昭和のまま時が止まったように感じることもあります」

佐藤さんが青梅に移り住んだのは、コロナウィルスが急速に拡大する2020年2月のことでした。築45年の民家を、アジアンリゾートのコテージをイメージして自分でリフォームしたのです。壁紙を貼ったり、ペンキ塗りや壁を抜くことまですべておこないました。
世の中が混沌としている中で、焦らずにサロンの開店準備を進めていきます。
そうして2021年5月に「AsianMoonなごみ」をオープンしました。

フーレセラピーの魅力

タイ古式マッサージとの出会いから、セラピストへの道を歩むことになった佐藤さん。現在サロンで提供しているのは「フーレセラピー」という手法です。
フーレとは足で踏むことを意味しており、手を使わず、足のさまざまな部位を使いながらからだ全体をほぐし、癒やすマッサージなのです。
「フーレセラピーという言葉が、耳慣れないという方も多いと思います。しかも顔や頭も足で踏むので、はじめは抵抗を持ってしまいますよね。何をされるのか不安を感じられる方もいるので、サロンでは姿見を用意しています」

鏡越しに施術の様子を観ることができるため、お客様は安心してフーレセラピーを受けられるのです。
佐藤さんがタイ古式マッサージに出会って20年近く経ち、今や広く知れ渡り多数の専門店が営業しています。
整体、リフレクソロジー、介護アロマなどさまざまな技術、スタイルを学ぶ中で、何を中心に据えるか。考えていたときに、家にあったフーレセラピーの本が目に留まりました。この本は佐藤さんがセラピストを始めた頃、買い漁ったうちの1冊だったのです。
マッサージは手で行うイメージが強い中で、足だけで全身ほぐされる感覚をまったく想像できませんでした。そこで体験会に参加してみると、足で揉まれているのに、手のような感覚に驚いたと言います。
「優しく肩たたきをするような、リズミカルな心地よさを感じたんです。当時、私自身も座骨神経痛に悩まされ薬を服用していました。不調と共存する年齢になったんだと受け入れなくてはいけないと感じていましたが、フーレセラピーを受けるとびっくりするほど身体が楽になったんです」

また、足で揉むことでデリケートな部位のマッサージも抵抗を感じにくいメリットがあります。フーレセラピーの魅力を知った佐藤さんは、自分のサロンで提供することを決めます。 最初は半信半疑だったお客様も、一度フーレセラピーを受けると、他のマッサージでは物足りなくなるほどです。
身体と向き合い、整えていく

誰しもが年齢とともに不調が増えていきます。
佐藤さんはその中で、「歳だから仕方ない」と諦めるのではなく、不調から少しでも開放され、毎日を気持ちよく過ごして欲しいという思いを持っています。
そのためには身体の悲鳴に耳を傾けること。そして不具合には早めに対処し、しっかり回復させる事が重要です。

「みんな無理をしすぎてしまうので、もうどうにもならないという状態でやっとお店にいらっしゃるんです。でも身体の状態がどん底に落ちている時にいらしても、一度でベストにはなりません。回復して、少し時間を開けてマッサージを受けることで徐々にコンディションが整っていきます。
ですが、ベストな状態に回復する前に通うのを辞める人は多いです。そうするとまたどん底に落ちて、マッサージを受けて回復して。それを繰り返してもベストな状態にはならないんです。ですから、深刻な状態になる前にマッサージを受けて欲しいと思っています」

佐藤さんが自分のサロンを開業した理由の一つに、いつでも相談をしに訪ねられる場所でありたいという思いがあります。
セラピストは仕事柄、数年で店を移る人が少なくありません。お客様にとっては、同じセラピストの施術を受けるのが難しいのです。また、イチから合うのを探すのは大変です。
しかし、自分でサロンを開けば別です。お客様に、安心してずっと通ってもらうことができるのです。
「通われている方の頻度はそれぞれですが、多い方は2週間に1度。1ヶ月〜2ヶ月おきにいらっしゃる方もいます。フーレセラピーを受けると内臓機能の働きが高まり身体がたたまったり、脂肪が燃え痩せやすくなるなど、健康の良いスパイラルが起きます」

「AsianMoonなごみ」に来るまでは、体の不調があれば整体に通っていた人もいます。
マッサージを受けることで、ゆっくり時間を掛けて患部以外ももみほぐす心地よさを知り、常連になる方も少なくありません。
「お客様からは、足がつらなくなったとか、体のバランスが良くなったという声をいただきます。それ以外にも、マッサージに行って人生初めてウトウトした、身体が楽になって、とにかくよく眠れるようになったという嬉しい体験も聞きます。体の不調を軽減して、毎日の生活を楽に、心地よく過ごすお手伝いができることが嬉しいです」


笑顔が呼ぶご縁

佐藤さんが仕事で大切にしているものは「笑顔」。
笑顔は人を元気にして、ほっとさせ、笑顔が笑顔を引き出すからです。また、落ち着ける、安心する、安らぐトーンと話し方を心掛けていると言います。
「これはセラピストだから、自分でサロンを営んでいるから心がけているわけではありません。ずっと大切にしてきたことです。笑顔と声が、私の人生でさまざまなきっかけにつながるご縁を導いてくれました」

佐藤さんの人生は、人の縁がつながった結果だと言います。
最初に勤めたマッサージ店から別の店に移るきっかけ。会社員時代の仕事など、自分を必要とする人との出会いが重なった結果なのです。
「マッサージ後には、お客様に手作りのデザートをお出ししています。お茶を飲みながらつい話し込むことがよくあるんです。私が悩みを聞くことで、身体だけではなく心も楽になれるとおっしゃってくださるのがとても嬉しいです」

今後フーレセラピーの技術アップを続けながら、サロンを軸にした場作りにも取り組んでいきたいと言う佐藤さん。
目指す姿は青梅の憩いの場。
「自然に囲まれた青梅で、日常の延長線にあるホッと一息つける場所を提供していきたいです。私は犬を飼っているので、犬も一緒に集まれるカフェなども素敵ではないかと想像が広がっています。今、自宅も改装の途中なので、家も進化させながら、サービスを広げていきたいと思っています」

ライター:
MISATO MURAKAMI